灰ぐもり空低き日のしめやかさよろこぶ人と都に住みぬ 窪田空穂
灰ぐもり空低き日のしめやかさよろこぶ人と都に住みぬ 窪田空穂(1877~1967)
○『明暗』(明治39年)所収。窪田空穂は、明治から昭和へかけてながく活躍し、どの歌壇にも媚びず独立独歩の地位を築いた歌人。豊かな古典の知識と、青年を思わせる溌剌とした精神をもって日常におけるこころの機微をこまやかに表現した。都会をテーマとしたときによくありがちな厭悪に陥っていない。灰いろの東京に住むささやかなよろこびを共有できるひとがいる。東京のそらはせまい。しかし、それゆえのしめやかさは田舎では味わい得ないおかしさがある。空穂のうたには、ヒューマニズムともいうべきあたたかさ、そしてものごとを肯定する精神にあふれている。
そのやうにさみしき顔をしてをるな親しき者よわれもさみしき 『濁れる川』
夜の灯のともり出でしを見やる児のあな何といふまじめなる眼ぞ 上同
夕まけて静まる空を押し披き生くからにこそ風の吹き来れ 『泉のほとり』