2021年7月31日 / 最終更新日時 : 2021年8月4日 touzainozomu 詩歌漫遊 百日紅ごくごく水を呑むばかり 石田波郷 百日紅ひやくじつこうごくごく水を呑むばかり ◯『鶴の眼』(1939)所収。百日紅の和名はサルスベリ。夏から秋にかけて百日ほど淡紅、白色の花をつける。猿もすべり落ちるというなめらかな木目と […]
2021年7月29日 / 最終更新日時 : 2021年8月4日 touzainozomu 詩歌漫遊 夏河を越すうれしさよ手に草履 蕪村 ◯前書き「丹波の加悦といふ所にて」。こういう俳句には解説は要らない。解説が要らないというのは、わかりやすいと同時に親しみやすく、特殊な経験や高度な知識を必要とせずに、その意味がただちに感得されるということだ。それは、やや […]
2021年7月25日 / 最終更新日時 : 2021年8月4日 touzainozomu 詩歌漫遊 ござたつたと見ゆる目もとのおさかなはさては娘がやきくさつたか 弥次郎兵衛 〇『東海道中膝栗毛』「初編」より。ご存じ、弥次郎兵衛と喜多八の珍道中。ふたりの馬鹿話、遭遇する事件のおかしさが物語の眼目だが、その顛末を狂歌によって洒落のめしていることはあまり取りあげられない […]
2021年7月24日 / 最終更新日時 : 2021年7月25日 touzainozomu 詩歌漫遊 たか山の峯ふみならす虎の子ののぼらむ道の末ぞはるけき 藤原定家 訳)高山の 峯をふみならして 虎の子が のぼってゆくだろう、この道を。 その道の果てしなさよ ◯『拾遺愚草』所収。「十題百首」より。「十題百首」は、天部・地部・居処・草・木・鳥 […]
2021年7月22日 / 最終更新日時 : 2021年7月25日 touzainozomu 詩歌漫遊 たちのぼり南のはてに雲はあれど照る日くまなきころの虚(おほぞら) 藤原定家 たちのぼり南のはてに雲はあれど照る日くまなきころの虚おほぞら 訳)もくもく立ちのぼる雲、ああ 南のそらの果てに 雲が覆われている。しかし 地にはあますことなく陽が照りつけている その夏の盛りの大空よ […]
2021年7月17日 / 最終更新日時 : 2021年7月17日 touzainozomu 詩歌漫遊 小さき山羊飼ふ空想もいつからかしばし語りて先に妻が笑ふ 近藤芳美 ◯『静かなる意志』(1949)所収。どこか牧歌を匂わすようで微笑ましい一首。犬でも猫でもなくヤギであるところに、このうたの生命があり、同時に作者の人柄がかいま見える。ときおりじぶんの胸にひらめいたたのしい空想を、気がつけ […]
2021年7月14日 / 最終更新日時 : 2021年7月14日 touzainozomu 詩歌漫遊 遠空に今し消えむとする雲の孤雲見をり拳かたくして 前川佐美雄 遠空とほぞらに今し消えむとする雲の孤雲ひとりぐも見をり拳けんかたくして 前川佐美雄さみお 〇『捜神』(1964)所収。口でどなるだけが怒ることではない。むしろそれは、怒りの質の […]
2021年7月10日 / 最終更新日時 : 2021年7月14日 touzainozomu 詩歌漫遊 こぞの夏荒れたる水のあとと聞く道の辺に咲く紫の花 湯川秀樹 ◯『深山木』(1971)所収。前書き「飛騨の平湯にて」。湯川秀樹は日本人初のノーベル賞(物理学賞)受賞者で高名な科学者であったが、漢籍や日本の古典に造詣がふかく、みづからも和歌を詠んだ。中学時代は厭世観におそわれ西行に傾 […]
2021年7月9日 / 最終更新日時 : 2021年7月14日 touzainozomu 詩歌漫遊 漱石 堀口大學 漱石 漱石は文学博士を拒んだ 然し彼の一生の文学は よろこんでそれを受ける 重要な一点は実にここにある 込み合ひますから 懐中物御用心! ◯『砂の枕』(1926)所収。堀口大學はエロスとエスプリ […]
2021年7月5日 / 最終更新日時 : 2021年7月5日 touzainozomu 詩歌漫遊 われに似たる一人の女不倫にて乳削ぎの刑に遭はざりしや古代に 中城ふみ子 『乳房喪失』(1954)所収。或るひとりの抱く苦しみは、厳密にみればそれ以前にも以後にもそれとおなじものは存在せず、そのひとの中にのみ存在する。おなじ出来事に遭遇したとしても、おのおの抱く感情の深さや色あいは異なる。それ […]