季めぐり宇宙の唇のさざめ言しろく降りくる冬も深まる 春日井建
季めぐり宇宙の唇のさざめ言しろく降りくる冬も深まる 春日井建(1938~2004)
○歌集『未成年』(1960)「雪炎」より。雪を抒情的にみるのは、ふだん雪をしらずに生きる者のつねだ。そのことを雪国に住むひとは笑うかもしれないが、それにしても雪がふるのはうれしくそしてうつくしい。古代のひとは雪を豊穣の吉兆としていたし、雪はたえずわたしたちをめでたい気持ちにさせてきた。
「宇宙の唇のさざめ言」というからには、きっとあわ雪だろう。この句によって、わたしたちはとたんに神話的な世界へと導かれる。おおららかで崇高なこころもちにさせられる。春日井建の処女歌集『未成年』は、
「大空の斬首ののちの静もりか没ちし日輪がのこすむらさき」
「火の剣のごとき夕陽に跳躍の青年一瞬血ぬられて跳ぶ」
などの鮮烈なうたが紹介されるが、今回のような透き通るようなうたも少なくない。
これは前衛歌人とよばれるひとに共通することだが、かれらのうたには古典性と現代性の相克が一首のなかにあり、その摩擦によってうつくしく激しい光芒がはなたれる。今回のうたの下の句をみるとなんてことはない文句だが、上の句の繊細でどこか神話的なイメージによって一首に妖しい気配がたちこめる。「雪」といわずして描いているのも奥ゆかしい。