冬籠りまたよりそはん此はしら 芭蕉
冬籠りまたよりそはん此はしら 芭蕉
◯貞享五年(元禄元年)の作。前年は、郷里の伊賀で年を越した。
「旧里や臍の緒に泣としのくれ」(貞享四年)
亡き母をおもいこころを痛ましめたその年とはちがって、今年は江戸に帰って歳末をむかえる。その間に、吉野、和歌の浦、須磨、明石、木曽、更科と旅をして江戸の芭蕉庵に帰った。ながらく空けていたわが家に帰って安堵したさまがうかがわれる。芭蕉はまるで旧友と再会したかのように、家の柱に親しくはなしかける。
前回、芭蕉の句における「此」についてすこし考察したが、やはりここでも「また」という副詞と相まって距離の近さが強調され、和歌には描きえないあたたかい卑俗さが表現されている。芭蕉は柱にもたれ、火鉢にぬくみながら、酒でも呑んだのだろうか。アニミズムをほのかに感じさせる一首。