頑と右向く鳥の頸わがうちに鎮めしずめて搬びて行くも 岡井隆
頑と右向く鳥の頸わがうちに鎮めしずめて搬びて行くも 岡井隆(1928〜2020)
◯歌集『朝狩』(1964)所収。まっすぐ向けようとしても頑として拒み、右を向く鳥がいる。くびは、びくとも動こうとしない。そんな鳥がじぶんの内にいる。それはじぶんの分身でもある。まっすぐ向けと指示するじぶんと、その指示をまっこうから拒否するじぶん。生きるためにはそっぽを向いてばかりではいけない。表ではまっすぐ向いて生きているが、その内側には反骨の鳥を飼っている。しずかに、鳥籠を表に見せぬよう、しかし鳥を逃さぬよう慎重にはこんでゆく、生きてゆく。こうした鳥を内に飼わず、まっすぐばかりに顔を向けて生きる人は浅い。鳥を全面に強調して生きるのも不粋だ。このあたりの機微が絶妙に言い表されている。
岡井隆は、戦後の短歌界をリードした歌人。写生の精神を根にもちつつ前衛的な表現で短歌にあらたな抒情の可能性をきりひらいた。批判精神と抒情の渾然一致したうたをおおく残した。残念ながら、氏は去年逝去した。わたしたちはさいごの巨星を失った。