衾さへいとおもげなる老の身のぬるがうへにもぬるねこまかな   大隈言道

衾さへいとおもげなる老の身のぬるがうへにもぬるねこまかな   大隈言道(1798〜1868)

訳)寝具でさえ

たいそう重くおもわれる

老いたこの身

寝ているその上に

寝ている猫だよ

◯『草径集』巻上。大隈言道は江戸末期の歌人。岩波文庫の解題(正宗敦夫)によると、国学者・歌人の佐佐木信綱が明治31年(1898)に神田の古本屋で偶然見つけてそこから人びとに膾炙したという。その歌風は平明清新、写実的なうたが多い。非凡な視点と親しみやすい抒情が読む者をあたたかくする。

布団でさえ老いた身には重いのに、そのうえに猫が図々しくも寝ている。こまった奴め、と苦笑する老翁のすがたが見てとれる。「ねこま」は、猫のこと。江戸時代の短歌は低く見られがちでじっさいそうなのかもしれないが、特色ある歌人がいたこともたしかである。大隈言道はまちがいなくそのひとり。

かへる雁帰りて春もさびしきにわらは(童)のひろふ小田のこぼれ羽

ねこの子のくびのすずがね(鈴が音)かすかにもおとのみしたる夏草のうち

 蟻

わらはべ(童部)のここにありともしらすれど見えぬばかりになれる老かな

土筆

ゆく人をゐなかわらはの見る計(ばかり)立ならびたる土筆(つくづくし)かな

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