植ゑし植ゑば秋なき時や咲かざらむ花こそ散らめ根さへ枯れめや   在原業平

 

ゑし植ゑば秋なき時や咲かざらむ花こそ散らめ根さへ枯れめや   在原業平

 

訳)まごころこめて植えたらならば

秋が来ない時も

咲かない、なんてことがありましょうか

花はやがて散ります、それでも

根っこまで枯れる、そんなことがありましょうか。

 

◯『古今和歌集』巻五、秋歌下。二六八。「人の前栽に菊にむすびつけて植ゑける歌」なお、『伊勢物語』五十一段にも。他人の庭に菊を植えたときに詠んだうたで、同時にその主の長命をねがううたにもなっている。古代では、菊は不老長寿の効があるとされていた。

「植ゑし植ゑば」の「し」は、おなじ動詞をくりかえし強調するときに用いられる副助詞で、「生きとし生けるもの」の「し」にひとしい。まごころこめて植えたら、くらいの意でとった。「秋がこないときには咲かないだろうか」、秋の来ない年はない。このとぼけたような誇張が業平らしくまたかれの魅力である。下の句も、「花は散るでしょうか、根まで枯れることがありましょうか」と問いをかさねる。花が散っても根はのこる、長く生きつづけるのですとほのめかし主の長寿と栄達をいのる。ふたつの問いをかさねるこのリズムの豪放さは比類ない。「その心あまりてことばたらず」と評された歌人は、まわりの歌人を「そのことばあまりて心たらず」とみていただろう。

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