旅寝する蘆のまろ屋の寒ければ爪木樵り積む舟急ぐなり  源経信

旅寝する蘆のまろ屋の寒ければ爪木樵り積む舟急ぐなり  源経信(1016〜1097)

訳)旅寝する

蘆で葺いたあばら屋が

寒いので

たきぎを切って積んだ

舟が急いでいるのだろう

◯『新古今和歌集』巻十、覉旅。九二七。詞書「田上にてよみ侍りける」「まろ屋」は、葦や茅などで葺いた粗末な家。「爪木」は、薪にもちいる小枝、もしくは柴。「樵る」は木を切ること。冬の旅のうた。近くの川から船を走らせる様子がきこえてくる。その船には薪がたくさん積んであり、寒さにふるえる方々の粗末な家にとどけようと急いでいるのだろう、と慮っているうた。前半は自分自身の住んでいる家を自嘲すると同時に、わびしく旅寝している余所のひとをおもってこう表現したのだろう。

「なり」は伝聞推量で、耳できいたことや人伝てにきいたことをほのめかす。「田上」は今の滋賀県大津市田上にあたり、近くには瀬田川がながれているのでじっさいに船のにぎわう様子がきこえてきたのだろう。ちなみに、田上には経信の住まいがあったようで、そうすると自宅からきこえた船の様子から想像をふくらませ旅のうたに仕立てたと、いえそうだ。わびしく寝る旅人のすがたはすなわち自分自身のすがたでもある。

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