野原より露のゆかりを尋ね来てわが衣手に秋風ぞ吹く 後鳥羽院
野原より露のゆかりを尋ね来てわが衣手に秋風ぞ吹く 四七一 後鳥羽院
訳)野原から
ちょっとした縁のある者を、ああこの涙を
はるばると尋ねて来て
我が衣手に
秋風が吹いているのだ
◯『新古今和歌集』巻五、秋下。「露」は、王朝和歌においては涙を暗示する。ここでは、ほんの少しの意の副詞「つゆ」と掛けられていて、「ちょっとした縁者」と「涙」が意味が重なっている。その涙と縁のある者とは誰なのか。上の句ではあかされず疑問におもってよんでゆくと、最後にそれが秋風とわかる。もっとも露と風とはセットで詠まれるのが多いので、慣れ親しんだ当時の人にははじめからわかっていただろうが、それでも明かされるのが五句目なので衝撃度はいくぶんか大きい。
露(ここでは涙)と風をあたかも親類のように擬人化しているのだが、あからさまな擬人ではないので快い。しめっぽさもなく、「野原より」という語によりうたの空間がぐっとひろまり壮大な心持ちにさせてくれる。そして、恋のうたでありつつもどこか帝王調も感じさせる歌だ。
「われこそは新島守よ隠岐の海のあらき波風こころして吹け」
と、人民のみならず森羅万象にも命ずる口吻をみせる後鳥羽院のことだ。秋風よ、我が袖のなみだを尋ねてきてくれて御苦労、と泰然たる帝王のすがたがほのかにみえるのは穿ち過ぎか。それでも傲慢にかたむかず繊細さを保っているのは名人芸である。