まだ知らぬ人をはじめて恋ふるかな思ふ心よ道しるべせよ 二条太皇太后宮肥後
まだ知らぬ人をはじめて恋ふるかな思ふ心よ道しるべせよ 二条太皇太后宮肥後
訳)まだよく知らない
あの人をはじめて
恋しくおもいます
あなたをおもう心よ
行くべき道を示しておくれ
○『千載和歌集』巻十一、恋。いまほど男女がおもてだって恋愛をしている時代はないだろう。わたしたちは好きなひとと手をつないで街をあるいても咎められることはない。また、相手をさがすための手段は巷にあふれている。昔のひと、特に女性はそうはいかなかった。じぶんの顔を相手に見せることはすなわち結ばれることを意味した。「あふ」ということは今のように軽いものではなかった。ゆえに、今回のようなうたが生まれる。
「まだ知らぬ」はまったく知らないひとではなく、うわさなどでは聞いているがとくに親密な関係はない、と解するべきだろう。できるなら今すぐに近づいて親密になりたいが、不自由な身にはそれはできない。ならば、あなたをおもうこころよ、おまえが先だって進みわたしの行くべき道を案内してくれ、と作者は絶唱する。
今と昔、恋愛する環境にちがいはあるがその本質はそう変わるまい。むしろ自由すぎる今のほうがその密度はうすまり、不自由な昔のほうが純粋熾烈な恋愛が存在していたかもしれない。今回のうたも、かえって現代において読まれることで新たな意味を獲得する気がする。