何となくさすがに惜しき命かなあり経ば人や思ひ知るとて   西行

 

何となくさすがに惜しき命かなありば人や思ひ知るとて   西行

 

訳)なんとなく

やはり捨てるには惜しい

この命

生き長らえれば、あなたが

この恋心をしってくれるかもしれないから

 

○『山家集』中、恋。「さすがに」、はそれはそうだが、しかし。「あり」は、生き長らえる。恋心を募らせて、死を決意する(じつは決意するふりなのだけれども)のは常套表現。その逆を衝いたうた。恋のためにいのちを捨てるのはそうはいっても惜しい。だからもうすこし生きてみよう。そうすればあの人もわたしの切ない思いを知ってくれるかもしれない、と西行は詠む。激越な恋情をおおげさに見せびらかすよりも、こうした内向的な思慕のほうが現実的で大人でうつくしい。前半のとぼけたような調子は西行にしかできない。下手にまねすると俗に陥る。

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