漱石             堀口大學

    漱石

 
漱石は文学博士を拒んだ
然し彼の一生の文学は
よろこんでそれを受ける
重要な一点は実にここにある
込み合ひますから
懐中物御用心!

 

◯『砂の枕』(1926)所収。堀口大學はエロスとエスプリに富んだ、日本では稀有な詩人。フランス語に堪能で、名翻訳集『月下の一群』は詩壇に新しい風を吹きこんだ。漱石は文学博士を拒み、彼の作品は大量の文学博士を生みつづけている。創作と批評、創造と学問。最後の二行が作者の真骨頂。『吾輩は猫である』と『明暗』までの道のりには、研究者と批評家がぎっしり鮨詰になっている。スリにはお気をつけてと詩人は微笑して警告するが、盗むに値するものがあるかどうか。

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