真木の葉のしなふ勢能山しのはずて我が越え行けば木の葉知りけむ  小田事

真木の葉のしなふ勢能せの山しのはずてが越え行けば木の葉知りけむ  二九一  小田をだのつかふ

訳)真木の葉が
  しなやかにたわむ勢能山
  いまは愛でずに
  わたしは超えてゆくが
  木の葉は知ってくれただろう、わたしのこころを

 

〇『万葉集』巻三。小田事は未詳だが、きっと役人であろう。急ぎの用で任地におもむく途中だったのか、物見遊山する暇もなく越えてゆくが、木の葉はわたしの親愛の情を知ってくれているだろう、という。「真木」は杉や檜の美称、「勢能山」は「背の山」で和歌山県北部にある妹背山いもせやまの、男性に見立てられる方の山。「木の葉知りけむ」という最後の一句によって、うた全体に神妙なひびきが加わる。自然との交感はかくありたい。桜や紅葉でなく、「真木」という常緑高木であるのもいい。古代の息吹きを感じさせると同時に幽暗な美も醸している。

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