迫りくる楯怯えつつ怯えつつ確かめている私の実在   道浦母都子

◯歌集『無援の抒情』(1980)所収。巻頭歌。60年代末期の学生運動、デモ隊をくむ学生に機動隊の楯がじりじりとせまってくる。デモ隊にいる女学生はおびえながらもその場にとどまり立ちむかうことで、生の重み、律動を確かめている。「実存」という語はすこし青臭いが、これを「存在」と書き換えたみるとどこがそらぞらしく、机上のうたとなってしまう。この語は当時の若者の雰囲気をつたえて余さない。単なるリポートとならず、激越な感情に陥らず、氏特有の抒情性をもって、その時代のにおいと若者の心情をひと筆で詠んだ秀作。

「今日いきねば明日生きられぬ」という言葉想いて激しきジグザグにいる

催涙ガス避けんと秘かに持ち来たるレモンが胸で不意に匂えり

スクラムを解けば見知らぬ他人にて街に散りゆく反戦の声

リーダーの飲み代に消えしこともある知りつつカンパの声はり上ぐる

会議果て帰る夜道に石を蹴る石よりほかに触るるものなく

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