ますらをや片恋せむと嘆けども醜のますらをなほ恋ひにけり   舎人皇子

ますらをや片恋かたこひせむと嘆けどもしこのますらをなほ恋ひにけり   舎人皇子

 

〇『万葉集』巻二・一一七。舎人皇子は天武天皇の第三皇子で、『日本書紀』の編纂にも関わった。「ますらを」は立派な男子。ここでは武勇ではなく文人官僚としてのニュアンスがつよいだろう。「しこ」は卑下の表現で、顔面の醜さではなく、「醜の御楯」ともいうように頑強さ、獰猛さの意とくみとるべきだろう。おのれを卑下するときは、じめじめと女々しくなるものだが、このうたの歌いぶりは太くたけくまっすぐで後味がよい。「ますらを」で二度リズムが休止するのも、皇子の吐息がきこえてくるようだ。この返答に、

 嘆きつつますらをのこの恋ふれこそ我がふ髪のちてぬれけれ  (万葉・巻二・一一八 舎人娘子をとめ
(嘆きつづけて、丈夫ますらおのあなたが恋しくおもってくれたからこそ、わたしの結った髪が濡れて、ほどけたので              すね。「ひち」はびっしょりぬれる、「ぬれ」は、髪がゆるんでほどけること。人におもわれると髪がほどける
という俗信があったらしい)

とある。

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