蟻の国の事知らず掃く箒哉  高浜虚子

蟻の国の事知らず掃く箒哉  高浜虚子

◯季語は蟻(夏)。図鑑をひらくと、おどろくほど巧緻なアリの巣がびんのなかにつくられている図が見られる。いくつもの部屋に仕切られていて、アリがおのおのの役割を担いつつ女王アリに仕えているさまはまさに国家のようで、この句の「蟻の国」という形容がアリの生態をぴたりと言いあてている。

だが、土のしたでそのような営みがおこなわれているとはつゆ知らず、箒を掃く者がいる。作者の妻であろうか。アリの巣に気がついていた作者は、巣が荒らされてゆく様子をみつめている。付近にいたアリもつぎつぎと掃き飛ばされているのだろう。しらずしらず人間がほかの生き物の生活を邪魔しているすがたを、この句は淡い悲哀をこめつつもどこか滑稽に描いている。

少年のころ、夏休みになると友人とちかくの公園に行き、いっしょにアリの巣をほじくっていたわたしにとって、この句は郷愁を感じさせます。もっともこちらは「蟻の国を知ってほじくるシャベル哉」とより残酷でしたが。

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