ゆふだちのはげしかりつる名残かな晴れゆく軒にのこる白露 慈円
ゆふだちのはげしかりつる名残かな晴れゆく軒にのこる白露 慈円
訳)夕立ちが
はげしく降った
なごりがあるよ
晴れてゆく軒端に
しら露がひかっている
〇『拾玉集』。また「南海漁夫北山樵客百番歌」。慈円は平安末期から鎌倉初期の歌人で、比叡山の天台座主をつとめるなど僧侶としても活躍した。史書『愚管抄』はかれの著作。
夏の天気の急変ぶりはおもしろく時に恨めしい。濡れねずみになったかとおもえば、すでに陽がさしている。空にはその名残りは見当たらない。だが、軒を見あげると露が点々とひかっている。その露は、見る人に時のながれを感じさせるとともに、天と地の空間的な交感もつたえる。
慈円の歌風は西行にちかしく、文辞を凝らすのではなく、流れるようなリズムで詠む。このうたも、さっぱりとした味わいのなかに深いひろがりが感じられる。