早苗取る山田の懸樋もりにけり引くしめ縄に露ぞこぼるる   源経信

早苗さなへ取る山田の懸樋かけひもりにけり引くしめ縄に露ぞこぼるる   源経信つねのぶ(一〇一六~一〇九七)

 
 訳)早苗をとる
   山間やまあいの田の懸樋から
   水がもれていたのだな
   張ったしめ縄に
   露がこぼれている

 

 

◯『新古今和歌集』巻三夏。前書き「山畦早苗といへる心を」。「懸樋」は節をぬいた竹などを用いた、水を引くしかけのこと。『新古今』にはときおり写実的で、王朝特有のじめじめさやきらびやかさを微塵も感じさせないうたが現れるのでおどろくが、これもその一つ。

ながく使われてがたつきはじめた懸樋、そこからとくとくとこぼれる露にぬれるしめ縄、そうしたささやかな物にそそぐしずかな視線は、和歌よりも俳句の世界をおもわせる。

作者には、

荒小田に細谷川をまかせれば引くしめ縄にもりつつぞゆく  (『金葉和歌集』・春)

という同趣の作がある。こちらは力づよく動きのあるうたで、表題のうたとは対照的なのがおもしろい。

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