「オヒルトリーのウィリアム・シンプソンへ」 ロバート・バーンズ
To William Simson,Ochiltree Robert Burns
May-1785
The Muse ,nae Poet ever fand her,
Till by himsel he learn’d to wander
Adown some trottin burn’s meander,
An’ no think lang;
O sweet, to stray an’ pensive ponder
A heart-felt sang!
(85-90行)
(拙訳)
うねる川べに沿って
ひとりきりでさまよい
時の流れから逃れてようやく
詩人はミューズに出会うのだ
ああ、なんという甘美、足にまかせてさまよい
自然のゆたかな歌に沈思することは!
【語釈メモ】△nae<スコット>=no △adown<古>=down △burn<スコット> 小川 △an’=and
△lang<スコット>=long
バーンズは18世紀に活躍したスコットランドの国民的詩人(1759~1796)。貧しい農家に生まれ苦労したが、自然と直に接してきた者にしかうたえない詩を書いた。自然詩をはじめ、政治詩、物語詩、諷刺詩、書簡詩、歌謡と幅ひろく手がけ、その野趣と雅致に富んだ作品はほかの詩人とは一線を画している。なお、日本でもおなじみの童謡「蛍の光」(Auld Lang Syne)の原作詞者でもある。
上掲の詩はぼくのすきな箇所で、長い詩から抄出しました。バーンズの英語は主にスコットランド語で書かれているので読むのに苦労しますが、それは彼が大英帝国にことばによって抵抗した証であり、国民的詩人たる所以でもあります。なのでメンドクサイと簡単に投げず、辞書を片手に今後もバーンズを読んでいきたい。
というのも、現代の詩歌にもっとも欠けているのが「自然」であるからです。それはぼくたちの精神が「自然」を必要としなくなっていることでもあるでしょう。バーンズの上の詩は、そんなぼくたちへの警告であると思っています。特に詩歌にこころざす者にとっては。しかもバーンズの詩は、梅に鶯といったような箱庭的な自然ではなく、荒々しく生命に満ちた自然を描いてるので読んでいて興味が尽きない。ビルとコンクリートに囲まれながらバーンズを読むと身のまわりののっぺらさが哀しくなると同時に、「自然に還れ」という声が自分のなかにひびいて奮い立つ心地もするのです。